株式会社favy
高梨巧

自分が望む景色をつくる

高梨巧
株式会社favy

1981年生まれ。高校卒業後、アルバイトとしてパソコンショップに入社、3ヶ月後に1ヶ月で3000万を売り上げる。2001年にWeb制作会社を起業。その傍ら2002年にアイレップに入社しSEM/SEO事業の立ち上げに従事。Google Adwordsの日本上陸に伴い、代理店であったアイレップの一担当者として企画段階から参画。SEMコンサルティングの第一人者的存在でありながら、のべ1,000社以上とビジネスを創造してきた企画屋。2015年に株式会社favyを起業し、代表取締役社長に就任。

株式会社favyについて
「飲食店が簡単に潰れない世界を創る」をミッションに掲げ、デジタルマーケティングと食の専門的知見から飲食市場に特化したマーケティング支援事業を展開。全国の美味しいお店を応援するグルメサイト「favy」ほか、“食”に関わる様々なメディアの運営も行っている。
HP:http://www.favy.co.jp/

自分は社会的適応能力がない。

『飲食店が簡単に潰れない世界を創る』をビジョンに掲げる、株式会社favy代表取締役社長、高梨氏のキャリアのスタートは高校卒業後のアルバイト。当時アジアを中心に展開されていたT-ZONEというパソコンショップで、販売員として働き始めたという。

「大学に行きたくないという理由で、すぐに働き始めました。学校は、みんなで同じことを同じスピードでやる場所。自分は得意なことはどんどん進めて、苦手なことはやりたくないタイプだったので、大学に行くのが嫌でした。小学生の時からプログラムを書いているようなパソコンオタクだったので、パソコンの知識なら活かせるし、もしかしたら社割で買えるかもしれないという思いでパソコンショップを選びました」

入社3ヶ月後、高梨氏は1ヶ月で3000万円の売上を叩き出す。ダントツで日本一位の記録だった。高梨氏が勤めていたのは新宿店。当時、秋葉原以外の店舗が売り上げのトップを飾ることはまずなかったという。

「新宿はオフィスが多かったので、パソコンショップなんですけど業務用販売をしたんです。会社のパソコンを見に来た人にヒアリングすると『買い換えようと思っているけれど、どれが良いのかわからない』と言われたので、用途を聞いてこちらから提案しました。その時はiMacの販売が開始された頃で、今ほど環境が整っていなかったし、自分はパソコンの自作も出来たので、直接見積もりに行きました。その会社にあるパソコンのスペックを全部調べて、これに変えれば処理能力がこれくらい上がるという資料を作り、それを稟議にあげてもらったら3,000万分お買い上げいただけたんです」

この経験によって、高梨氏はビジネスの世界へとのめり込んでいく。

「父も祖父も経営者だったので、もともとビジネスへの興味はありました。だからこそ大学には行かず、スキルを学べそうな会社で経験を積んでいこうと考えていたら、アルバイトの立場で3,000万という数字を出して、会社の人からもすごく褒められたんです。楽しいし、お金ももらえるし、仕事の面白さを実感しました」

その後、高梨氏は企業に企画を持ち込んだり、ポータルサイト「goo」を運営していたNTT-X(現NTTレゾナント)が手がけるプロジェクトにプロジェクトマネージャー的な立ち位置で参加した。そして「環境goo」というサイト事業の経験により、デレクションや企画、進行が自分にスキルフィットしていると感じ、2001年にはWeb上でUI/UXをどう表現するかということを軸にした制作会社を友人と起業する。

Google、運用型広告の幕開け。

しかし、1年も経たないうちに自分の想いと実際の仕事に温度差を感じたという。

「その当時、自分のやりたいと考えるUI/UXは全くトレンドではありませんでした。結局出来上がるのは、パンフレットをWebにしたようなホームページで、それまでの関係性でいただいていた案件にもちらほら終わりが見え始めていました。そこでメンバーと相談し、会社を残したまま、もう一度各々で外に勉強に出ることを決めました。」

Sal高梨氏は営業力を高めようと、インターネット広告代理業を主軸としていた株式会社アイレップに入社する。その時、アイレップは現在の「グーグル広告(Googleが提供する広告出稿サービス)」の旧サービスである「Google Adwords」の日本第一号代理店であり、高梨氏はその担当者となった。

「私がアイレップに入社したのは、まさに運用型広告であるGoogle Adwordsを世の中に広めようというタイミングでした。Googleが今のような体制になる全然前のことなので、Google側の人間もまだ日本に数人しかおらず、コンピュータに詳しい人も少なくて、パソコンオタクである自分は重宝されました」

高梨氏は、この時自分の思い描いていたUI/UXがインターネット上で必要になり肝になっていくことを肌で感じたという。次第に、世間でもデジタルマーケティングという言葉が使われるようになり、高梨氏はその第一人者的存在として働き続けた。その当時、アイレップは毎月売上が倍になる勢いだったという。

アイレップで働き始めて1年半が経った時、高梨氏は築いてきたノウハウを会社に残し自分の会社へと戻った。そして独立してからも、SEOとリスティングどちらの経験も豊富であった高梨氏の元には、必然的にSEMの話が集まるようになっていた。

「一番極端だったのは、コンペが行われている案件4社の裏が全部自分だったことです。それぞれ異なる広告代理店からお話をいただいて、なんか内容が似ているなと思ったら全部同じコンペに向かっていたなんてこともありました。」

その後、コンサルティングから事業開発、広告事業まで幅広く手がけるようになった会社を分社化することに決め、高梨氏はコンサル事業に集中していく道を選ぶ。株式会社favyを立ち上げる前に、これまで立ち上げたプロジェクトや事業を数えたところ250ほどになっていたという。次第に、業界には自分が教えていたメンバーやその部下といった間接的なつながりを持った人間が増え、高梨氏は広告業界に飽きを感じ始める。

あのダイナミズムをもう一度。

「散々色んなプロジェクトを立ち上げてきたけど、自分の全力を自分だけに注いでみたくなりました。何ができるんだろう、何が生まれるんだろうと」

その思いがきっかけとなり生まれたのが、株式会社favyである。株式会社favyは2016年に5人のメンバーで始め、今では200人の従業員が在籍している。

「favyがやろうとしていることの根幹には、『飲食店の経営をデジタル化』というものがあります。GoogleとGoogle Adwordsを広めていった時、Googleがベンチマークにしていたのは、当時コインパーキングを展開していたパーク24という会社でした。月極めの駐車場を小分けにしてひとつひとつをオークションにかけたのがコインパーキングであるように、ネット広告も月極めを小分けにして、さらにキーワードをオークションにしたのがGoogle Adwordsです。あの時に、デジタル化ってこういうことなんだと受けた衝撃を、また経験したいと思いました」

高梨氏は、どの業界であったらデジタル化の面白さをもう一度体現できるか考え、たどり着いたのが飲食業界だったという。

「自分のコンサルティングスキルの軸になっていたのも、“データドリブン”という集めたデータに基づいて経営をデジタル化することでした。そのスキルを活かして変えられる業界、かつグローバルに通用すると思ったのが飲食業界でした。先進国・後進国に関わらず世界中で単一ビジネスであり、キャッシュポイントも1つ、どこでも同じビジネスモデルが使われていることが決め手になりました」

高梨氏は、favyを始めたことで大きな変化が2つあったという。

「1つは自分がやったことないものが目の前にあるという状況を取り戻せたこと。もう1つは、コンサルティングを生業にしていた身から1つの会社を経営することに踏み込めたことです。今までは自分の力で解決できる領域の仕事をしていましたが、今は組織として勝っていかないといけないので、その戦い方がもどかしくもあり、面白くもあります」

集めるには、仕組みがいる。

飲食店の経営をデジタル化するという目的を持った大きな風呂敷を広げ、社内と社外、経営陣と従業員とはどういったコミュニケーションを取っているのかと問うと、高梨氏からは「広げた超でかい風呂敷をどう畳むかというのを考えながら、やるべきことを試していくだけです」というシンプルな答えが返ってきた。

「ECサイトで買い物をしようとすると、当たり前のように個人情報を入力する画面が出てきて、誰もが何の疑いも持たず自分の情報を提供します。しかし、飲食店がお店に入るなりお客さんに情報の入力を求めたらどうでしょう。本来、飲食店がお客さんのデータを集めてはいけないというルールはどこにもありませんが、多くの人が嫌がると思います」

飲食店には毎日大勢の人が訪れるにも関わらず、顧客データなどのデータドリブンは蓄積されていない。しかし、単純にデータを取得しようとするとお客さんとの間にどうしても摩擦が生じる。

「だったら予約があるじゃないかと思いますよね。けれどみなさん、どのくらいの頻度で予約を取りますか。外食が多いビジネスマンでも、平日のランチ5回と週3回の飲み会があるとして、1ヶ月のうち予約を取るのはそのうちの1,2回ぐらいではないでしょうか。ラーメン屋さんや松屋などのファストフードはそもそも予約のシステムがないですし、人気店であるとか、大事な食事であるなどの要件がない限り、予約はしないんです」

明確な統計があるわけではないが、飲食店全体における予約の利益率は10%程度だという。高梨氏は、既存の飲食店からデータを取得することが不可能ならば、完全会員制・完全予約制の店舗を作ろうと考えた。

「改めて、データを取得することは簡単ではないと感じました。ただ一度、完全会員制・完全予約制のお店を試してみようと。同じ縛りを設けているビジネスモデルを探したら、会員制の倉庫型卸売をしているコストコが思い浮かびました。それなら、年会費をいただいて、コストバリューを良くして、コストコと同じ飲食店を作ろうと。ただお店側にもそれを実現するための制約はあって、コストコでいえば1つのパッケージが大容量であったり、ダンボールのまま置かれているように、飲食店でも入店時間と退店時間は固定してコースも1種類とするなど条件を設けた上で運営したんです。そしたら結果的にお店がブレイクして、沢山の方に喜んでいただけるお店が生まれましたし、次第に来店頻度や打ち手によるコンバージョンの変化も見えるようになりました。」

最初から役に立とうと思わない。

「技術面、テクノロジー面でのハードルに加えて、飲食店を経営する側の理解度も課題になるので全部が全部データ化に繋げられるわけではありませんが、favyがやろうとしていることは飲食店のデータ化とCRM化(顧客管理)です。そのために必要だと思って試していることが、ある人から見れば特殊に見えたり、社会貢献に繋がっていると思っていただけたりするんだと思います」

しかし、高梨氏にとって大事なのはあくまでも自分がやっていて楽しいかどうかであり、世の中の役に立つこと自体は主目的ではないという。自分のいる飲食業界が今より面白くなることを純粋に望み、そのために高梨氏は競争相手を求めていた。

「飲食店の間でもサブスクリプションという概念が広まり、結果的にデータが取れる店舗が増えています。その流れによって、今まではCRMを組むことに関心のなかった人も顧客データが蓄積されることに興味を示すようになってきました。また、自分たちの存在を見込みのあるお客さんに知らせるには、お店を探して検索した時にしっかりリスティングされていることが重要で、飲食業界でもその一連の流れが認識されつつあります。サブスクからプロモーションのフローまでをやろうとしている人は、去年あたりから急増していますね」

勢いが増す中、高梨氏は社内のメンバーにもfavyが目指す全体感を伝えるよう心がけているという。

「一昨年くらいまでは情報を咀嚼して話していたので、社内でも自分のやっているプロダクトの一端がどこにどう繋がっているか、わからない者もいたと思います。しかし、去年あたりから離乳食はやめようと、とにかく硬いものを食べさせた方がいいと決めたので、少しずつ社内とのコミュニケーションもシフトしています」

最後に「10年後には飽きたって言って他のことをしているかもしれません」と笑いながら話した高梨氏だったが、本当にそうなった時には飲食店と人の関わり方はかなりの変化を遂げているはずだ。高梨氏のように、自分にとっての好きや新しいとやり合う者が、眠っている可能性を掘り起こすのだろう。